猫の名はちょいと。

猫と映画好きが綴る、ささやかな日常

それ、わたしの皿です

むかし、住んでいた街のカフェバーで常連さんと仲良くなった。

彼はテレビの制作会社で働いている元慶応ボーイ。人の懐にスルスルと入り込み、だれとでも仲良くなってしまう。わたしたちは恋愛というよりご近所さんとして、お酒を飲みながらたくさん喋った。

 

ある日、もう一人の常連さんと3人で、彼の家で映画鑑賞をすることになった。一人暮らしで皿があまりないと言うので、わたしの家から何枚か持参した。

その時に観たのは白石和彌監督の『凶悪』。誰のチョイスだったか忘れたが、酒を飲みながらワイワイみる映画ではないことは確かだ。「先生」とよばれるリリーフランキーが、これでもかというほど残酷でぶっ飛んでいる。

家の白い壁をスクリーン代わりにして映していて、かなり色が浅かったのだけど、刺激がマイルドになって丁度よかったのかもしれない。お酒を飲みながら、引きつつ苦笑いしつつ鑑賞した。観終わったあとは酔いもまわり、いやーすごい映画みちゃったねーと大盛り上がり。すごく楽しい夜だった。

 

半年くらい経ったころ、わたしは急に引っ越すことになり、それからはカフェにも行かずに彼とは疎遠になった。でもSNSを通して近況は知っていた。

彼は仕事で出会った、たまにドラマで脇役をしている美人と結婚したそうだ。最近になって料理をはじめたらしく、よくインスタを更新している。

そして、わたしが持参したまま戻ってくることの無かった皿も、インスタにたびたび登場するようになった。すこし歪んだ四角形で、特徴的なのですぐに分かる。彼はそれが気に入っているのか、回鍋肉や生姜焼きやらを盛られた皿がよくアップされている。

そのたびに「それ、わたしの皿やで」と思う。毎回、思う。それは人からもらった2枚1セットで、わたしの家にはその片割れがあるので、それを使う度にももう1枚の皿のことを思う。「あれ、わたしの皿だったのにな…」と。

 

でも誰から借りたのかわからないモノって、きっと誰にでもあるだろう。その皿は片割れになる運命だったと思い諦めた。いやいや、もっと前向きに彼への結婚祝いとでも思っておくか。

わたしより先にお嫁にいった皿よ、たくさん活躍してくれ。